ある結末

その人とは会うことが決まっていた。



18時に自宅に伺うことになっていた。
口論になるのだろうか。
先輩と一緒にケーススタディとイメージトレーニングを繰り返す。
80歳になる老人を相手取り、職務を果たす為に必要な立ち会い。




ドクターゲロみたいな奴がすごい勢いで出てくるんだと思っていた。
屋根とか内側から吹っ飛ばしながら。






出てきたのは一見好戦的ではない老人だった。
隣には変な業者がついている。
オブザーバーか?







土地を手放そうと希望した顧客から土地を買取り、買い取った土地の隣に住んでいて唯一手放すことを拒み続けた兄弟と接見。

その兄弟は長男だった。





「一族の育った土地は代々受け継がれ守られるべきもの」
「偉大な父親の功績や一族の繁栄を表す記念碑を作りたかった」
「他の兄弟は信用ならない」
「隣が売却されると、どんな人が次に来るのかわからない」


十字架のような責任感と、鎖のような被害者意識を、全く関係のない俺らにちらつかせる。




いわゆる「先生」と呼ばれる種類の人に共通する特徴。
それは、聞かない人にも聞かせようとすること。
自分の話は皆が聞くもんだと思っている。
そして考えや話題、果ては感情まで相手構わず共有させようとする。






俺の父親がそうだ。






いや、気持ちはわかる。
言っていることも間違ってはいない。
むしろ正論だ。
決心がにぶる瞬間もある。
ただ、残念ながら私はあなたの親族でも、友人でも、同窓でもない。
仕事上で接点を持った他人だ。
そして、残念ながら気持ちを汲み取って一連の出来事を白紙に戻すような権限もなければ、そうすべきでもない。
関わったからには自分の判断に責任を持たなければならない。




乗り込む前に先輩が言った。
「宿題を持って帰らないように」




性格的なことは一先ず置いておくが、とにかく色んな立場の人間が色んな主義主張を繰り返す今回の遺産分割協議。




最後に相手が言う。

「購入したのがあなた達のようないい方でよかった」


こっから長いだろうな。
ただ、今日は確実に大きな折り返し地点だった。
折り返し地点を通過し、俺らはこれから戻ってくる。




けどゴールって何だ?