ヒトリノ夜

休日出勤で、午後打ち合わせ。
結果は悪くない。
来月には契約になるだろう。
ただ、相手が思っていること、考えたいること、そして期待をしていることに、全て納得のいく対応ができてこそ。
競合他社を見るのではない。
お客さんに必要な情報を的確に応えてこそ。
お客さんを見るんだ。



事務所に戻る前に、現在工事中のお客さんの所に寄り、保険の手続きをする。
このお客さんにもとても迷惑をかけた。


「鼻声だな。風邪か?」
「大丈夫ですよ」
「忙しいのはいいけど、体壊すんじゃないよ」
「ありがとうございます。
○○さんも」


そんな言葉を交わし、事務所へ。
事務所には俺宛てに別のお客さんからFAXが届いていた。
借地の所有をめぐって底地業者ともめているお客さん。


「…言われた通り、11月は供託をしました。
先方とは年末会う予定です。
母はやはり底地を購入する希望はありません。
色々とアドバイスありがとうございます。
明日は冷え込むようです。
たろーさんも風邪を引かないようにお気をつけて」


何も役には立ててないんだよな。
そんな気持ちを抱きながら、荷物をまとめ、車を修理に出しに立川へ向かう。


ディーラーに着いて、荷物を台車に移していたら、電話で応対してくれた営業が挨拶に来た。
俺の担当の営業は今日は休みだった。


「お電話で応対させて頂きました○○です、いつも△△の下で仕事をしております」


とても対応の気持ちのいい営業だった。
自分の新規にならない仕事でも、的確に対応をしてくれた。


「こういう仕事も営業がやるんですか?」
「今日のようなことですか?まあ誰が、というわけではないんですが、要はお客さんが困らないように動くだけで、誰がというわけじゃないんです」



この人は新人なのかな、それとも俺と同じくらいなのかな。


見た目ではわからなかったが、何年目かある程度経験を積んだ人のコメントであってほしいと願った。



台車で帰りながら、色んな人に声を掛けたがことごとくつかまらない。
夕飯を誰かと食べるのがこんなに大変だとは。



しまいには半日の運転に疲れて、苛立つ気持ちを抑えられない。


今日という日に少し失望しながら、地元に着き、家の近くのバーに行く。
今日を振り返り、手帳に明日の予定を書きながら、カウンターで物思いにふける。


お客さんで騒々しい店内が一段落つくと、バーテンの女性が来て、
「ギネス、好きなんですか?」


ギネスのキーホルダーをくれた。



今日は俺から声を掛けると全てが空回りだったけど、人に声を掛けられることは多かったな。
まあこんな日もあるか。